暁の虚城、宵待ちの都 第一章

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  (1)  



 道々は満面の笑みでごった返し、花びらが空から舞い降り、音楽が鳴り響く。街ひとつが一体になっていた。
 全てを無に帰す世界終焉の化身、異魔神が倒されてからまだ間もない。
 街は魔物達に襲撃された跡が生々しく残ってはいるが、瓦礫の影は脅威から開放されたという人々の驚喜がそこら中を埋め尽くしていく。
 復興まではまだ時間が掛かるだろうが、人間の底知れないところは「心」の動きひとつで成果が十にも百にもなるところだ。戦の以前の状態になるまでにはそう時間はかからないだろう。

 「……ラン、アラン!」

 ごった返す群集の中で思案していたところに、ついさっきまで街の人々と面していたはずの三人目の勇者、アステアにいつの間にか背後から声を掛けられていた。
 アステアは本来、長らく日の光から遠ざかっていた地下世界の住人。歴史からも意図的に隠ぺいされていた最後のロト子孫ということもあって、噂は噂を呼び物珍しさもあってか…実際には容姿も目立つのだろう。先に向かって色付く薄紅の髪、色素の薄い肌と、普段日光の恩恵を受けてきた人込みの中にいては厭でも目立ってしまう。
 結果、第一のロト子孫、アルスに次いで囲まれていた。
 かなりの人数に囲まれていた中最後方にいた俺の所にくるまでにも結構な人数とすれ違っているはずだが、みなぞんざいに扱わず、かといって一所に留まるでもなく。社交性もあるということだろう。ごく自然にこちらに近付いたという訳だ。……俺には到底無理な話だが。

 「アラン。いろんな街に寄って戦で傷付いた人達を元気づけよう、ってアルスと僕と君で決めたんじゃないか。 ぼーっとしてたんじゃだめだよ。これも平和になったからできるんだよ。分かってる?」
 「……あ、ああ。分かってはいるんだが……。」
 「僕ら三人のうち、一人だけでも皆の心の力になれるんだ。今までのことを考えるとちょっと辛いかもしれないけど……「三人」は思ったより意味が大きいんだ。今まで通ってきた街でも感じただろう?」
 「善処する。」

 こんな短い会話の間にも、アステアの回りには続々と人々が押し寄せてきていた。
 アステアは軽くため息をついて、それでも微笑を浮かべながら俺に目で『がんばれよ』と訴えながら人込みに消えて行った。アルスは本来の人懐っこさと第一の勇者ということもあって、当の昔にどこかの黒だかりに消えている。
 あいつのことだ。確実に人々を叱咤激励、鼓舞させているだろう。異魔人が世界を侵食しはじめた時から、「人」との繋がりがあいつのロトの血を輝かせていたのだから。
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