お買い物
「やあねえ男って。ほんと食い意地ばっかり!」
「まあまあ。でもそのおかげでこうしてゆっくりお買い物できるんだし。」
「……それもそうね!」
道中訪れた小さな町で、勇者一行はつかのまの休息を取った。
アルス、キラ、ポロンは到着するやいなや、宿屋に隣接していた食堂──から立ち上っていた匂い──に引き込まれていってしまった。
消耗した携帯品を補充する目的もあったのだが、様子をみる限り「おかわり」の連呼と皿の積み上げ作業はまだしばらく続きそうだ。
「悪いんじゃが、ヤオ、ティーエ、二人で買出しをしてきてはもらえんかのう。」
というタルキンのため息付の頼みに従って、二人は町へ繰り出した。
元々さほど大きくない町である。半刻も商店街を練り歩けば必要なものはじきに揃った。
「薬草も聖水も買い足したし、こんなもんかな。」
「ねえねえヤオ、せっかくだしお洋服も見てこうよ。」
購入したアイテムの確認をするヤオの隣で、ティーエが耳元で提案した。
「そうねえ、この服も少し小さくなってきたような気がするし……。」
「そうそう! それに、私たちだってちょっとぐらいおしゃれしたいじゃない!」
「……それもそうね!」
* * *
「ヤオ、こっちはどう?」
「そ、そんなひらひらしたの、着られないわよ!」
「似合うと思うんだけどなあ。」
「私はこれ、これがいいな。」
そういって手に取ったのは、目にも鮮やかな真紅の武道着。
最低限の装飾のみがあしらわれた、格闘家の動きを妨げない定番の型だった。
「いつものが一番いいのよ。」
「そんなのつまんないよー。そんなんじゃ、男の子は振り向いてくれないよ。」
「わ、私は色気より使命なの! そんなことより、ティーエは何か買わないの?」
「こーんな小さいサイズ、売ってないもん。あーあ、ヤオはいいなあ。」
「そ、そっか。」
炊き付けてみたり落胆してみたり、小さな妖精はくるくると表情を変える。
たまに点在するエルフの隠れ里やドワーフの集落を見つけない限り、ティーエの装備品をそろえるのは難しい事だった。
「そうだ!」
と、ぱっと顔を上げて、ヤオはポンと手堤を打った。
「私が作ってあげる、ティーエの洋服。」
「えっ!」
「うーん、戦闘に耐えられるようなのはまだ無理だけど、寝巻きぐらいなら。」
「ほ、本当?! えーっと、じゃあねえ、あれ、ああいうのがいい!」
ティーエは目と羽を輝かせて、洋品店中を駆け巡った。
「レースとフリルがいっぱいの、まーっしろなのがいいな!」
「そっちの方が作るの大変よ、ティーエ!」