【短編】【企画】おえかき掲示板投稿作品に勝手に小説をつけてみる試み

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  *さんのイラストより|アラアス  

「邪魔じゃないのか、それ。」
「え? 何が?」
「……髪の毛。」

回廊を連れ立って歩いていたアランが不意に発した。
彼はいつでも一歩後方を、影のごとく付き添う。特に用事がない限り、必要以上の行動や言動をすることは滅多になかった。
たまたま人の往来の少ないスポットに差し掛かっていたからか、珍しく「なんでもないこと」を口にする。

「ああ、髪の毛ね。いつのまにかかなり伸びた。そろそろ結わえたりしたほうがいいかな。」
「いや……どっちでも構わんが。」
「昔は三つ編みしたりしてたんだよ。こういう風にして。」

後頭部の真ん中を指で縦になぞるようにして、伸びた髪の毛を左右に分けて毛束を肩口に寄せる。利き手の方である右の束だけをさらに3本に選り分けて手早く編み込んだ。ようよう編み込んだ三つ編みの編み止まりを指でつまみ上げて、「ほら」とアランに見せた。

「器用なもんだな。」
「ふふ、昔取った杵柄ってやつ。案外忘れてないもんだね。」
「ま、俺には必要ないものだ。」
「え、アラン、自分の髪の毛を三つ編みにしたいの?」
「……そういう趣味はねえよ……。」

箒のようになった三つ編みの毛先をアランに向けて、ぷらぷらと弄びながらからかってみる。冗談に乗ってくる気配はない。乗られてもその後のフォローに詰まってしまいそうだけれども。

「ははーん、さては、三つ編みしてるの見てもやり方分からないんでしょ。」
「やるかそんなもん。」

さっきまでため息を着いていたかと思えば、今度はにわかに挙動不振だ。

「左側、空いてるよ? やってみる?」
「……。」

アランは、そのまま肩口に流れっぱなしの左の髪の毛を見た。遊んだままの流れが歩みに合わせて左右に揺れる。

「…………今度な。」
「ふふ、今度ね。」

つまんでいた三つ編みの穂先きから指を離した。
エントランスに近い廊下に人影が見えてくると、私はまた前を向いて、アランは影のように気配を鎮める。
三つ編みは緩やかにほどけていくと、何ごともなかったのように元の形に融かれていたのだった。
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