ロト紋好きさんに30の命題より
14. 自信
「……なんだこれは。」
区分された書類は、どれも整然とした文字列がびっしりと埋まっている。画一的、といっていい仕事の束に、このような体裁面が紛れていると厭が応でも目に入ってしまう。俺がいつも目を通すほぼ真っ黒な書類とは相反する、空きをふんだんに取りつつ視覚効果を意識する版。
大体は似たようなタイトルやら謳い文句やらが踊ることになっているわけだが、本日の題目は『一週間でできる! 男性の魅力倍増塾』であった。
ここ最近、時たまこういった類が混入している。どれもこれもこんな感じの余計なお世話なものばかりで辟易しているのだ。政治的最高座の書類に紛れている、ということは、途中の監査ともどもどこかでグルになっているのだろう。ご苦労な事だ。突き止める気にもならん。
「馬鹿馬鹿しい。」
いつものように一言だけの感想を述べ、派手な書面は俺の手から屑入れへと吸い込まれていった。
正直言うと、俺は未だに男女を取り立てて区別する意味合いが分からない。「男らしさ」「女らしさ」と特別声高に主張したところで、それはこの政治書類のように画一的に分類するまでのことではないのか。そこに、「俺」という一個人を見い出す事はできない。
これらは大体にして、剣に鞘がつきものであるかのように、文脈文脈にいちいち「女を意識」というセンテンスが付属している。版の宛先である俺を男、としているならば、対の女を差しているのは暗にアステアということになる。どれもこれも概略としての語彙なだけで、どうも空を掴むような気がしてならない。外からの情報を頼りに固められたアステア、というのはなんだか他人のような気がしてくるのだ。
「何眉間にしわ寄せてるの、アラン。……ん?」
休憩をとりに外に出ていたアステアが部屋に戻ってきた。
偶然仕事の手を止めていたところに出くわした上に、いつもなら細々にちぎって屑にしている例の書面が目に止まってしまったようだ。……迂闊だった。アステアはひょいと屑入れから取り出して、文字面を軽く読み流す。
「一週間で出来る、男の魅力……? 何これ?」
「知らん。最近、どこかの誰かが書類に混ぜている。」
「ふうん。……アランは、こういう風なのに興味あるの?」
「そんなことあるはずないだろう……。」
アステアは「今度、変なの入れないように注意しておく」と言って、用もないのに引っぱりだされた哀れな書面はまた屑入れへと吸い込まれていった。
「アステアは、こういう方がいいのか。」
「アランが本のサンプルみたいな人になるってこと?」
「……。」
「私は今のままがいいなあ。第一、お互い疲れちゃうんじゃない。」
「……だろうな。同感だ。」
「普通が一番いいんじゃないかなと思うけど。」
「俺はただの俺だ。」
分かってるよ、と言って、アステアは微笑んだ。俺はこの反応だけで十分なのである。多くは望んでいないつもりだ。
「それにしても……さっきのチラシの本。実践したらまた私は「少年」に戻れるかな? ふふ。」
本日何度目かの否定を呟いた。