ロト紋好きさんに30の命題より

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  15. 宿敵  


 時々、ふと思う。この世は全て『精霊ルビス・編著』のシナリオに沿っているものではないのかと。書き出しだけは決まっていて、あとは俺を含めた役者達の、アドリブを織りまぜたスペクタクルなのでは、と。
 窓の外は、もうすぐ空が白みかけるという色彩を告げている。いつもはこれほどまで早い時間に起床する事はないのだが、覚醒してしまったものは仕方がない。身が沈んでいた漂白の寝床から上半身だけを起こして、俺は隣で寝息を立てているアステアを見遣った。普段は奥二重に隠れている長い睫が、緩やかな呼吸と連動して揺れている。
 日常の歯車と歯車の合間の時間というものは、普段考えないようなことを考えてしまうものだ。

 今では当たり前とすら思えるこの状況も、数年前だったらなら到底考えられないことだ。
 俺は災厄の手先として、アステアとアルスは正義の使者として、それぞれの道を歩んでいたのだ。当時、早くから相反する運命によって睨み合ってきたアルスなどは、冗談じみているぐらい俺とは対極的な存在だった。そんなアルスと戦線を共にしてきたアステアをして、連鎖していくことは想像に堅くない。
 詰まるところ、そのまま順当に行けば、今アステアの隣にいるのは俺でない可能性が高かったということだ。この展開において、シナリオライターの精霊ルビスが一流か三流なのかは推し量れない。決まっていた始まりなのか、アドリブなのかも。
 無意識にアステアの頭を撫でる。毛先に向かって色付く薄紅は、つくづく不思議な色合いだ。撫でられたアステアの頬が弛緩する。夢を見ているのかも知れない。

 「俺と彼奴はどこまでいってもライバルだった、か。」

 思わず漏れた。……こんな逡巡は誰にも悟られないようにしよう。
 そうこうしているうちに、アステアが薄目を開けて起き出した。真っ白なシーツの上を、長いグラデーションの髪が滑っていく。

 「んー……おはよう、アラン。」
 「ああ。」

 悪いが、しばらくはアドリブで行かせてもらうとする。
 精霊ルビス、予定調和は任せた。
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