11-11
11-11 after,side ARAN|前編
ポッキーゲーム:サイド・アラン
一瞬の出来事だった。
異国からきた一箱がもたらした2種類の甘味は、受け取り先の一人アランをすこぶる困惑させるに至った。
元々一箱、箱の中身は複数であったのだから、最初からアステアも食べるものとして、アランは身寄りのなかった「ポッキー」を二つに分けていたのである。
予想通り、アステアはポッキーが大分目減りしてから「やっぱり食べる」と進み出た。そこまでは想像の範疇だったのだ。
そこから先が困惑の出自なのである。
「ご、ごちそうさま!!」
アステアはアランが半ば食べ進めていた「自分の分の」ポッキーに食いついた。否、正確には、結果的に「吸い付いた」形になった。
ポッキーは珍味の類。ゆっくり味わう、というのが相当の所業であるのだが、珍味を求めるには俊早すぎるほどの時間だった。
アステアの踏ん切りがそれ相応の決意であったことを物語るには十分だ。
「お、おい、アス……」
アランが驚いて声をかけたときには、アステアはグラデーション掛かる薄緋色の髪に流線を描かせて扉から外に駆け出している。
踵を返しざまに見た横顔は紅潮して、それを押し隠すかのように手のひらは口元を押さえていたことをアランは見逃さなかった。
すぐに駆け出して掴まえることは容易な俊敏さを持つアランだったが、予測外の出来事に立ちすくんでしまった。
そう長くない事後時間のうちに、アステアの足音はずいぶんと遠いものになっている。
「……。まだガキっぽいところもあるんだな。」
アステアが開け放した扉から目を落として、アランは後ろ頭を軽くさすった。
先に潜り抜けていった俊足の緋色とは対照的に、ゆっくりとした足取りでアランは部屋の出入り口に吸い込まれていった。