08. 親友
もたれ掛かったバルコニーの下から今日も歓声が聞こえる。階下に広がる城の庭では何人かの子ども達が遊んでいた。パッと見た感じ年の差が近い子どもの集まりなのだろう。男児も女児も混ざりあっているようだ。この庭の次期主になるだろう双児達もその中に紛れて、体一杯に時間を共有していた。ラダトーム城の皇子と皇女であるアニスとアロスと遊んでいるのは街の子ども達だ。
執務の休憩時に、俺は手すりにもたれ掛かってバルコニー越しにその様子を眺めている。時折吹く涼風が、仕事で緩慢としてきていた頭をすっきりとさせてくれる。眺めているのはそのついでだ。
「いつの間にか友達も増えて……楽しそうね、アニスもアロスも。」
バルコニーの反対側は王の部屋へと続いている。部屋の応接間に据えられたソファで午後の読書と洒落込んでいたアステアが、本から視線を外して語りかけてきた。
「ふふ。アランが率先して庭を開放するなんてね。」
「ここが一番安全だ。」
「私もそうしようとは思っていたけれど……庭師が困った顔していたわ。」
「花壇にピオリムでも掛けておけばいいだろう。」
「雑草まで成長が早くなっちゃう。」
アステアは口元をほころばせて、俺の肩ごしに思いを馳せる。
「そういえば、アランにはあんまり友達という友達は訪ねてこないけど……さびしくない?」
「ケンオウぐらいなら面識はあるぞ。」
「うーん、それはそうだけど。アルスとキラみたいな関係の……なんていうのかな。中でも特別な友達とかいないの?」
「……。」
「アラン?」
「……だろ。」
俺の声は盛り上がる階下の声に消されてしまったようだ。
「え、なに?もう一回。よく聞こえなかった。」
アステアが本を綴じる音がする。俺の視線はバルコニーの外のままだ。
「そういうのは、そこにいるだろ。」
アステアからの返事のタイミングがずれた。……何かおかしい事を言ったのか、俺は。
「……そっか、そっか。ふふふふ。」
「なんだ。」
「ううん、何でもない。そうだ、今度アルスとキラを食事に誘おう。ね。」
何でもない午後のひとときは、いつもこうして過ぎて行く。
さて、そろそろ仕事に戻るとしよう。